目次ほたる 「記憶のはしっこ」#2
8 Photosモデル・ライターとして活動する19歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の2回目です。
目次ほたる 「記憶のはしっこ」#2
8 Photosモデル・ライターとして活動する19歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の2回目です。
「なんだかとても無造作で、それがとてもオシャレなじょうろだな」と思った。
写真を撮り慣れてくると、街を歩いているだけで、
「あ、いいのが撮れる」と直感的にわかる瞬間がくるらしい。
私がそのレベルに到達するにはまだまだ時間がかかりそうだけど、いつか体験してみたい。
足のサイズが大きいので、なかなか合う靴が見つからない。特に夏の間は最悪だ。
オシャレのために履くようなサンダルは、どれも形が複雑だったり、ヒールが高かったり、硬い素材を使っていたり、と靴の中の治安は極めて悪い。だからと言って、私だって引き下がれない。可愛い足元のためなら、多少の痛みや生傷なんて恐るるに足らないと思いつつ、毎回かかとの皮膚をズルズルにしている。たまに血も出る。
そのことを母に伝えたら、「私も若い頃はそうだったよ。でも、今は嫌。楽なものを身につけて、楽な気持ちで生きたいの」と言っていた。
そんな母に対して、(ちょっとカッコいいな)と思いつつも、私はやっぱり8センチのハイヒールが捨てきれないために、今日もかかとをズルズルにしている。
おおきなプールに入りたい。
室内の温水プールじゃなくて、太陽に照らされて少し温められた、水色の屋外プールに。
プールサイドが、ビビッドなオレンジ色のペンキで塗られていたら、もっと最高。
真っ白なビキニを着て、キラキラ光る水の中に「いっせーのせっ!」で飛び込んだら、ザプンとゆっくり沈んでいって、また少しずつ、浮き上がる。
髪の毛一本一本の間に水分が染み込んでいくのを感じながら、仰向けになって、手足の力を抜ききるんだ。
空を真っすぐに見上げれば、ブルーがどこまでも広がる世界に、一筋の飛行機雲が描かれている。きっと、いつもよりずっとたくさんの空気で肺を満たせるはず。
すこしカッコつけてプールサイドに上がったら、パラソルの飾りがついた、ラズベリースムージーを飲み干す。うん、完璧だ。
ミニストップに行って、いちごパフェを買った。
とちおとめの乗ったアイスクリームに、練乳がたっぷりかかった期間限定商品で、まえから気になっていたものだ。
レジで「いちごパフェを一つください」と頼むと、少し浅黒い顔をした店員さんにカタコトの日本語で「レジ袋は有料ですが、いりますか?」と聞かれた。
(なるほど、最近は環境への配慮がコンビニにまで浸透しているんだな)と思い、私も協力しなければという使命感にかられてしまったために、袋を断った。これが大きな失敗につながるとも思わずに。
(家まで徒歩3分くらいだし、大丈夫かな)と油断していたのも束の間、出来上がるのを待っていた私に差し出されたのは、蓋すらされていない野ざらしのいちごパフェだった。
今にも溶け出しそうな容器の中身を覗き込みながら、「え、蓋はないんですかね……?」と恐る恐る尋ねる。すると、さっきの店員さんに「蓋も有料、袋を買ったら付いてきます」とそっけなく返されてしまった。
(マジか……)呆気にとられる私だったが、ここまできて蓋や袋をもらうわけにはいかない。なぜなら、今さっき、私はエコロジストとして名乗りを上げたばかりだからだ。
仕方なく、可哀想な私のいちごパフェを手に、家まで早足で向かった。
しかし、季節は夏。たとえ夕方だとしても、気温は決して低くない。
必死で歩いた私の努力も虚しく、到着したときには、半分以上のアイスが溶けていた。
ああ、エコロジストも楽じゃない。
言葉にも、においや手触りがあるな、と思う。……なら、写真は?
(あなたのお気に入りの写真のにおいや手触りを教えてください)
「日常を紡ぐという行為は、生きることへの祈りなのよ」と、賢い友人が言っていた。
撮影・文 目次ほたる