目次ほたる 「記憶のはしっこ」#12
8 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の12回目です。
目次ほたる 「記憶のはしっこ」#12
8 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の12回目です。
先日、冬服を買うために家族とショッピングモールに出かけた。
数日前から急に寒くなってきて、なにか暖かくできる洋服を探そうと、クローゼットをひっくり返したところ、自分がびっくりするほど洋服を持っていないと気がついたのだ。
ショッピングモールに着いて、洋服屋さんを物色していると、施設内の中庭にメリーゴーランドが設置されているのを見つけた。
西洋を思わせる豪華な装飾を施された、その立派な作りに感動して、思わず近づき、「乗りたい」と呟いた。
しかし、成人女性が嬉々として馬の遊具に乗っている光景はいかがなものだろうか。周りを見回しても、乗っているのは幼い子どもか、子どもを見守る親しかいない。
でも、私は昔からメリーゴーランドが大好きで、あまり考える間もなく、いつのまにか300円を支払って、白い馬にまたがっていた。
レトロな音楽を流しながら、くるくると回る時間が、子どもの頃に憧れた、遊園地の記憶を想起させる。メリーゴーランドは、私にとって幸せの象徴なのだ。
回転が止まって白馬を降りると、管理人のおじさんが「いい思い出になったでしょう」と微笑んでくれた。ぬるい風が心地いい日だった。
「おいしい」と「うまい」の間には、明確な違いがあると思う。
ニュアンスを伝えるのが難しいのだけど、例えば甘いケーキはおいしくて、熱々の焼肉はうまい。でも、母の前で「うまい!」と表現すると、よく「女の子なんだから、おいしいって言いなさい」と怒られていた。幼心に(変だなぁ)と思っていたけれど、仕方なく「おいしい」と言い直していたのを覚えている。
この前、茨城のお魚市場に遊びにいったとき、店先に売られていた岩牡蠣を食べた。
おじさんが目の前でパカリと開いてくれた貝殻の中身はあまりに濃厚で、思わず「うまい!!」と大きな声を上げる。
(また言ってしまった)そう思って焦ったが、おじさんはというと「だろ?」と嬉しそうに笑っていて、なんだか腑に落ちた。やっぱり、うまいものはうまいのだ。
落ち込んだとき、頭の中で架空のタバコを吸う。
本当はタバコなんて吸ったことがないのだけれど、煙を吐くイメージをしながら、ゆっくりと息を吐くと、心が休まるのだ。
この前も、雨が降る帰り道、なんだか嫌なことを思い返しながら、頭の中でタバコを出して、火をつけた。
先端に朱色の光を灯したそれを口に咥えると、灰色の煙の代わりに、どこからか雨の水分を伝ってきた花の香りが、肺をいっぱいに満たしていった。
帽子をかぶったカラーコーンが、夕日に照らされている。
この前、知り合いと喋っているとき、いきなり「愛とはなんだと思う?」と聞かれた。
飲んでいたハーブティーのカップに思わず視線を落とす。
なんというか、その、ただならぬ空気を感じ、「なにかあったのか」と聞きたくなるのをグッと我慢した。
相手が言わないことは、無理に聞かないのが私のルールなのだ。
できるだけ、目の前の顔を見ないようにしながら、
「対象を選び続けることだと思う」と答える。
知り合いの両目が、「どういうことだ?」と不思議そうに動いたが、なんだかうまく説明できなかった。
それでも、何かと聞かれて頭に浮かぶのは、「常に選び続けること」なのだ。
夜になると、いつも自宅の庭から、なにかの鳴き声が聞こえてくる。
「ケッケッケ」と鳴くあの声の主がどんな動物なのか、未だにわからない。
冷たい雨が降った日。金木犀の影は、星色に染まっていた。
撮影・文 目次ほたる