目次ほたる 「記憶のはしっこ」#13
8 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の13回目です。
目次ほたる 「記憶のはしっこ」#13
8 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の13回目です。
寒くなってきたから、煎茶の茶葉を買ってきた。
お気に入りのガラスのティーポットに茶葉を入れて、お湯を注ぎ入れると、深緑色が透明な中身を、熱を帯びて満たしていく。
しかし、茶の香りに心を踊らせたのも束の間。
(これ、撮ってみよう)
そう思ったのが、なによりの失敗だったのだ。
「ガチャン」
ティーポットの蓋がつるりと滑って、悲しい音を立てた。
音が鳴り止んだときには、透明なものが5つか6つの破片となって、テーブルの上に横たわっている。
私の不注意だから自業自得なのだけど、お気に入りだったから、けっこうショックだ。
そもそも私は頻繁に食器を割る。
今年に入ってからも、すでに平皿を1枚、お茶碗を2個、ワイングラスを1個、湯呑みを3個、割ってしまっていた。
本日は、ここにティーポットの蓋が加わったのだ。
(どうしてこんなに食器を割ってしまうのか……)
と不安になって、ネットで調べてみたが、「お皿を割るのは、面倒くさがり屋の特徴」とか「せっかちな性格のせい」と出てきたから、余計に落ち込んだ。
いい加減、割ってしまった食器のお葬式を開いてあげないと、食器たちに呪われるんじゃないだろうか。
茨城にある水族館に行ってきた。
海洋生物が好きで、水族館にはよく訪れる。
深い海の底でしか見られないような海洋生物たちが、生きるために必死に泳いでいる姿を見ると、自分の小さな悩みとか不安が、どうでもいいように感じられるのだ。
そういえば、幼い頃、水族館に行くたびに、
「このガラスが割れて、お魚たちが溢れ出してきてしまったらどうしよう」と怖がっていた。
しかし、あのガラスというのは、私たちが想像しているより、ずっと分厚いらしい。
大人になってそのことを知ってから、恐怖は無くなった。
けれど、実のところ「お魚が溢れだして、一緒に泳げたら楽しいな」と思っていたのは、
まだ誰にも話していないのだ。
きっと最上級の愛の言葉が、風に揺れている。
海の香りが、懐かしさを感じさせるのはなぜだろう。
我が家に、耳の生えたフサフサの同居人が越してきて、早2週間が経った。
まだあまり懐きはしないものの、ごはんはモリモリと食べ、たくさん寝て、たまに猫じゃらしで遊んでくれる、いい子だ。
そんな彼女が「馬尾症候群」という病気だというのが、最近判明した。
しっぽの神経に異常が出る病気で、この先一生治ることはないらしい。
「大変かもしれないけど、どうか気長に付き合ってやってください」
目の横にシワを刻んだ獣医さんにそう言われて、動物病院から帰ってきた。
しっぽを力なくダラリと垂らしながら、それでも金色の目を爛々と輝かせて、こちらを見上げる彼女を、できる限りの力で守っていきたいと思っている。
夏は「暑いから、どこか涼しい場所で夏眠したいな」と考えていたけれど、冬になると「寒いから、どこか暖かい場所で冬眠したいな」と思うようになった。
個人的に実施したいのは、リスの冬眠スタイル。
彼らは冬眠前に食料を蓄えておいて、たまに起きてきてはお腹を満たし、また眠る生活をするのだと聞いた。
私も食料を買い溜めて、お家でぬくぬく冬眠したい。
この前、カメラを真っ二つに割る夢を見て、夜中に飛び起きた。
写真を撮り始めたことで、悪夢のバリエーションが、また一つ増えたらしい。
「好き」が増えれば、「悲しみ」も増えるのかもしれない。
そんなことを考えて朝を迎えた。
撮影・文 目次ほたる