記憶のはしっこ特別対談「山中夏歩さんの記憶をたどる前編」
7 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」。今回は特別企画としてポートレートモデルであり、会社経営者でもある山中夏歩さんをお招きして、「写真への思い」についてお話を伺いました。
記憶のはしっこ特別対談「山中夏歩さんの記憶をたどる前編」
7 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」。今回は特別企画としてポートレートモデルであり、会社経営者でもある山中夏歩さんをお招きして、「写真への思い」についてお話を伺いました。

「写真ってなんだろう」
「撮るってなんだろう」
読者の皆さんと一緒にそう考え続けることが、連載「記憶のはしっこ」の1つの目的です。
今回で当連載は20回目を迎えました。
真夏へあと一歩という6月の暑い日、カメラをポンと手渡されて、好きなものを撮っていいと言われた私はこの半年間、カメラを片手に自分なりの方法で写真と向き合ってきました。
そうしているうちに気になったのは、
「私以外の人は、写真とどう向き合っているのだろうか」ということです。
写真やカメラについての考察をSNSやブログに綴っている人はたくさんいる時代に、誰かの意見を知ることは簡単だけれど、誰かと向き合って、自分の考えをじっくり話し合う機会は、そう多くはありません。
だからこそ、今回は写真に関わる方をお招きし、たっぷり時間をかけてお話を伺いました。
対談企画第1回目にお招きしたのは、ポートレートモデルであり、会社経営者でもある山中夏歩さんです。
山中さんとは以前に1度お会いして以来、彼女の写真活動への真摯な姿勢や、その行動力に惹かれていました。
今年になって、彼女がご自身のSNSで、「写真が並ぶギャラリーを運営する、ギャラリストになりたい」という夢を語られていたのを見て、私は「山中さんの写真への情熱はいったいどこから湧いてくるのだろう?」と、ずっと不思議だったのです。
そこで今回は、山中さんと対談形式でお話しすることで、お互いの写真への思いを語り合いながら、写真と共に生きると決めた彼女の情熱の根源をたどりました。

▽山中 夏歩 (やまなか・なつほ)
写真が大好き。モデルとしてだけでなく様々な活動を通して写真とポートレートの発展のため日々模索中。
2015年11月から約2年にわたり撮影会の代表を務め、その後フリーランスのポートレートモデルとして活動。年間300回以上の撮影依頼をこなし、雑誌掲載他、プロカメラマンの作品撮りやワークショップのモデルも務める。
日本各地を飛び回るモデル活動の中で「応援して下さるフォロワー、ファンの方々と交流を深める機会をもっともっと作りたい」という想いから「スキマ時間に自在に交流ができる、新しい配信スタイルと体験」を構想し、2019年9月に株式会社munimuを設立。ライブ配信アプリMonopol(モノポル)を独自に開発。
2020年3月にはフリーランスポートレートモデルによる撮影企画FPM企画室をオープンし初回予約数は600枠以上の応募があった。
山中さんのTwitterはこちらから(https://twitter.com/9oooona)

(撮影:山中夏歩)
写真に出会った、意外なきっかけ
目次:今回は山中さんのご活動や、写真について考えていることをお話しできたらと思います。
まずは、山中さんは年間300回以上も撮影をこなされている上に、撮影会を主催されたり、独自で配信アプリを開発されるなど、非常にパワフルなポートレートモデルさんだと思うのですが、なぜポートレートモデルをはじめたのでしょうか?きっかけを教えてください。
※【ポートレート写真・ポートレートモデルとは】
ポートレート写真とは、人物を主体的なモチーフとした写真のことです。
ファッションを主体的なモチーフとして撮影をするファッションモデルに対し、
ポートレートモデルは人物撮影を目的とした写真のモデルを務めます。
山中さん:私がポートレートモデルを始めたのは、ミスコンに出場したのがきっかけなんです。
目次:ミスコン、ですか?
山中さん:はい、私が当時住んでいた地域では毎年ミスコンが開催されていて。
大会自体は大規模なものではないのですが、優勝商品がけっこう豪華だったんです。
ちょうど私が出場を決めた年の優勝商品が「ハワイ5泊6日」だったから、「どうしても優勝して、ハワイ行きたいなぁ」と思って。
目次:…結果はどうでしたか?
山中さん:ありがたいことに、ハワイ、行けました(笑)
目次:優勝されたんですね!!すごい!!
でも、そこからどうしてポートレートモデルにつながったのですか?
山中さん:はい、嬉しかったです(笑)
その時点では、ポートレートモデルになるとは思いもしていなかったのですが、
ミスコン優勝の副賞に、地域ラジオのパーソナリティや地方テレビ番組のニュースキャスターになれる、なんていうのもあって。
せっかくだから、と出演させてもらっているうちに、活動を通じて知り合った方から、撮影会モデルのお仕事を紹介して頂いたんです。それがポートレートモデルになったきっかけでした。
目次:意外なところから写真の世界に入られたんですね。
山中さん:そうなんです。
でも、当時入っていた撮影会はあまり私の方向性には合わなくて、半年くらいで辞めてしまいまして。それでもポートレート写真が好きだったので、自分で撮影会を主催しはじめたんです。
目次:それで撮影会の運営を。
それにしても、活動開始から半年でご自分で撮影会を作られるなんて、すごい行動力……!
実際に撮影会を運営されてみて、いかがでしたか?
山中さん:やっぱり、最初はすごく苦労しました。
自分で考えた企画や運営を行っていくのはとても楽しかったのですが、初めての経験ばかりで苦戦することが多かったです。
現在は、私がオーナーや事務作業をこなしながら、直接的な運営は他の方にお任せしている状況ですね。
目次:撮影会は人がたくさん集まる場でもありますし、やはり苦労はありますよね。
山中さん:そうですね。でも、もちろん収穫もたくさんありました。
自分が企画を考えるのが好きだと知れましたし、フリーでポートレートモデルをやっている今でも「どういう場所で撮影したら良い写真が撮れるだろう」と考えるのは、楽しみの1つです。
それに、私がカメラを始めたのも撮影会を運営しはじめたことがきっかけなんです。
目次:撮影会のためにカメラを?
山中さん:はい。撮影会を立ち上げた際に、出演していただくモデルさんたちの宣材写真をそろえなければいけなくなって。
モデルさんが今まで撮ってもらっていた写真を使おうかとも考えたのですが、肖像権の問題もあり、私自身が撮るのが一番安全だと考えたため、そこで初めてカメラを購入しました。
目次:なるほど!それでカメラを始められたんですね。
山中さんはSNSでも、モデルとして写っているポートレート写真だけでなく、
ご自身で撮られた写真もたくさん載せていらっしゃいますよね。
山中さん:そうなんです。
宣材写真を撮るうちに、私ももっと写真が上手になりたいと思うようになって。
それから、写真を撮ることがどんどん好きになりました。
今では、ポートレート写真や風景写真、ストリートスナップも気ままに撮っています。
目次:写真に写るだけでなく、撮ることも楽しめるって本当に素敵ですよね。
ちなみに、現在使用されているカメラや、今までのカメラ歴についても教えていただけますか?
山中さん:初めて自分で買ったカメラはRICOHのGRⅡです。
その前にもNikonのD700を知り合いのカメラマンさんに安く譲っていただいたのですが、ちゃんと自分で買ったのはGRⅡがはじめてでした。
あとは最近、自分への誕生日プレゼントにPentax67を購入しました。
目次:GRⅡは私もとても気になっているカメラです。カメラ選びに、なにかこだわりはありますか?
山中さん:私は、もともと機材に高いスペックは求めていないんです。
GRⅡを購入したのも、出かけるときにポケットに入れられるところが一番の理由で。
ポケットに入るような小さなサイズのカメラはあまり出回っていないし、あったとしてもスマホで撮るのとそんなに変わらない気もしたので、手軽に持ち運べて、かつスマホと差別化できる点でGRⅡを選びました。
Pentax67は、私の大好きな写真家の濱田英明さんが使っているカメラで、完全な憧れで買っちゃいました。
以前は、どうせレタッチをするなら写真を撮るのに、機材はあまり関係ないと思っていたのですが、デジタルの写真をどんなにレタッチしても濱田英明さんの写真には近づけなかったんです。
それで、どうしても濱田英明さんの撮るものに近い写真が撮りたくて、同じカメラを使って挑戦しています。
まったく同じ写真に撮れているとは言えないけど、デジタルで撮るよりはずっと近づけたかと。

(撮影:山中夏歩)
カメラ1つで、今まで見えなかった世界が見えてくる
目次:山中さんは、写真で誰かを楽しませているだけではなくて、ご自身も写真をとても楽しまれているんですね。日々、多くの活動を通じて写真に関わってきていると思うのですが、そのなかでも写真を好きになったきっかけはありますか?
山中さん:写真に関わるようになって、季節の移り変わりや自然の変化に気がつくようになったのが、好きになったきっかけかもしれません。春になって咲いている桜を見ても、いままでだったら「きれいだ」としか思わなかったんですけど、写真をはじめてからは、同じ景色を見ても「これはソメイヨシノで3月末から咲くけど、カワズザクラは2月から咲くんだ」と考えたり。
目の前のものを深く見つめるようになりました。花の種類にもめちゃくちゃ詳しくなりましたね。
撮影活動を始めるまでは、「キンモクセイ」の名前すら知らなかったんですよ、私。
写真を撮ってはじめて、「こんなに花がボロボロ落ちるんだ」と思ったりして。
今までは考えたこともなかったものが、見えてくるようになったのは大きなきっかけでした。
目次:身の回りをよく観察しないときっと良い写真は撮れないから、写真を撮ることで一気に世界が解像度を増して見えてくることってありますよね。
私は近所や公園を散歩しながら撮る、いわゆる「お散歩スナップ」が好きで、よく撮りに歩くのですが、初めてカメラを持って散歩に出かけたとき、今まではなんとも思っていなかった道路や、公園に咲く草花が、「写真を撮ろう」と思いながら見るだけで、急に美しくみえてきて。あの瞬間は、本当に嬉しかったです。
写真って、記録から始まった文化じゃないですか。
絵とは違って、目の前のものをそのまま残せるから、記録に最適だったと思うんです。
でも、だからといって、みんながみんな同じ写真を撮れるわけじゃないし、現実をそのまま撮れるわけでもない。
それは、撮っている側の感情や意図が写真に乗っかるからだと思うんですよね。
その人それぞれのフィルターがかかって受け手に伝わるところが、写真の面白いところだな、と思います。
山中さん:うんうん。以前、読んだ記事で面白いものがありました。
その記事では、複数のカメラマンさんに同じ人物を撮ってもらい、それぞれに「この人は消防士だ」「この人は囚人だ」など別々の情報を伝えるんです。
すると、同じ人でもまったく違った印象の写真ができあがった、という話しで。
「消防士だ」と伝えられたカメラマンさんが撮ると、同じ人物でもたくましく見える写真ができたり、「死刑囚だ」と伝えると、人相が悪いように見える写真ができたんです。
人の印象や感情はそれだけ写真に影響を与えるわけですよね。

(撮影:目次ほたる)
今までの経験が、自分の写真に写り込む
目次:山中さんは写真を撮ること、写ることのどちらもやっていらっしゃいますが、ご自身が写真を撮影する際に、ポートレートモデルとして撮られている経験が役立ったことはありますか?
また、逆に写真を撮る際に苦戦したことはありますか?
山中さん:そうですね、普段から色々なカメラマンさんとお会いするので、それぞれまったく違う撮影スタイルを体験できて、自分が写真を撮るときもとても参考になっています。
「この人は躍動的な被写体を撮るのが好きなんだな」と感じ取ったり、「この人のまえではきっちりとポージングを撮ったほうが喜ばれそうだ」と思ったり。
撮られる側だからこそ察知できる部分がありますね。
あとは、どこから光が入っていればどんな写真になるのか、などライティング的な光の読み取り方も、自分が撮ってもらった結果を見ているから、少しずつわかるようになりました。
目次:よりよい作品を作るために、カメラマンさん側の目線に立って自分という被写体を見る時間は、とても勉強になりますよね。
山中さん:はい。でも、光を読み取るのが得意になったのとは反対に、背景処理に苦手意識があります。
目次:背景処理、というのは?
山中さん:撮られる側は、自分の後ろに広がっている景色は見えていないんですよね。
だから、シンプルな背景で光を生かした写真を撮るのは得意でも、ごちゃごちゃした景色やなにもないロケーションとなると、どうしていいかわからなくなるんです。
背景に関する知識というか、経験値が足りていなくて……。
目次:確かに、自分の背景は見えませんもんね。
撮影の経験値があっても、どうしてもそこだけは盲点になるんですね。
山中さん:そうなんです。
だから、なんでもない背景の写真をかっこよく撮れる方は本当に尊敬します。
目次:ポートレート写真は同じロケーションでも背景の選び方だけで、かなり印象が変わりますもんね。
私の場合は、写真を始めたばかりだからか、撮るのに夢中になって被写体に近づきすぎてしまうのが、最初の苦戦ポイントでした……。
撮っている時点では楽しくてカシャカシャとシャッターを切るのですが、帰ってデータを確認してみたら、どれも撮りたいものに近すぎて構図がイマイチだったり。落ち込むことが何度もありました。
山中さん:それはどうやって解決したんですか?
目次:「この場所を撮りたい!」と思った瞬間に、
その場で3歩後ろに下がるのをルールにしたら、だんだんマシになりました。
後ろに下がるうちに頭が冷静になるし、構図も必然的に少し引きぎみになるので、あとでトリミングすればある程度、修正が効くんです。
自分の苦手な部分も、ちゃんと認識すれば改善していけるから、そういう成長の過程も写真の楽しいところだなと思います。

(撮影:目次ほたる)
後編へ続きます。

文・構成 目次ほたる