記憶のはしっこ特別対談「山中夏歩さんの記憶をたどる後編」
7 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」。前編から引き続き、今回も特別企画としてポートレートモデルであり、会社経営者でもある山中夏歩さんをお招きし、「写真への思い」についてお話を伺いました。
記憶のはしっこ特別対談「山中夏歩さんの記憶をたどる後編」
7 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」。前編から引き続き、今回も特別企画としてポートレートモデルであり、会社経営者でもある山中夏歩さんをお招きし、「写真への思い」についてお話を伺いました。
誰でも使えるカメラで、自分にしか撮れない1枚を
目次:これまでのお話を伺って、山中さんは本当に「表現者」なんだな、と思いました。
でも、今の時代にはSNSを使って表現できることが、写真以外にもたくさんあると思うんです。TikTokやYouTubeに動画を投稿して、有名になっている方もたくさんいらっしゃいますよね。そんな時代に、数ある表現方法のうち、山中さんはなぜ写真を選ばれたのでしょうか?
山中:うーん、難しい質問ですね(笑)
今までの人生で、表現の手段は一通り経験してきたとは思っています。幼少期から高校生くらいまでバレエをやっていたから、レッスンには本気で打ち込んだし、もっと幼いころは音楽をやっていた時期もありました。
高校生時代は美術部に入っていたから、本格的に絵を描いた経験もあります。
目次:バレエですか!ダンスのなかでも、ストイックなイメージがあります。
山中さん:そうですね。忍耐力はすごく鍛えられたと思います。私は1つのことに夢中になりやすいのですが、バレエの辛いレッスンに耐え続けて培われた性格なのかもしれません(笑)
でも、ケガが原因でバレエは辞めてしまったんです。それまではレッスンばかりしている子どもだったので、バレエを辞めてからはやりたいことがなにも無くなってしまって。
そうして空っぽの状態の私のなかに、写真が自然に入ってきたというか。
目次:心のなかの空白にうまく入り込んだのが、写真だったわけですね。
それで撮影会や会社まで立ち上げるなんて、人生なにがあるかわかりませんね(笑)
山中さん:本当ですよね(笑)
写真には、気軽にできるからこその奥深さがあると気がついたから、余計に夢中になったのかもしれません。
誰でもボタン1つ押せば撮れるし、立っていれば写れる。
そんな写真が、ここまで多様化するのが不思議で、面白かったんです。
それに、写真のなかで自分ならではの表現を見つけられたときは本当に嬉しくて。
誰もが別々の表現を楽しめるところに、惹かれました。
(撮影:山中夏歩)
あの写真家に惹かれる理由とは
目次:写真愛あふれる山中さんですが、好きな写真家さんについても詳しく教えていただけますか?前回のお話では、写真家・濱田英明さんのお名前を出していらっしゃいましたよね。
山中さん:柔らかい優しい写真を撮られる写真家さんでは、濱田英明さんと岩倉しおりさんがとても好きです。
でも、その一方で、鈴木達朗さんの撮られる写真も大好きで。
目次:好みの振れ幅がなかなか大きいですね(笑)
山中さん:そうですね(笑)
濱田英明さんや岩倉しおりさんの撮られる写真は、濱田さん自身が「写真は祈り」とおっしゃっていたように、この世界の理想の姿を写真で表していると思うんです。その表現の仕方や世界観がとても好きで。
逆に鈴木達朗さんについて言えば、撮られる写真ももちろん好きなのですが、写真家としてのあり方に憧れがあります。
アーティストとして生きていくのが難しい現代日本で、写真のために人生のすべてをかけて活動される姿に胸を打たれました。
目次:そういった写真家さんは、日本には少ないような気がしますが。
山中さん:ふつうは、どうにか自分の資金源を作って生活していく方が多いと思うのですが、鈴木達朗さんは本当に「写真以外はやらない」というスタンスで活動なさっているんですよね。
人生をかけて写真をやってらっしゃる方は多くないからこそ、私は少しでもそういう方の力になりたいんです。
(撮影:山中夏歩)
だから私は、写真と共に生きる道を選んだ
目次:それで、以前からSNSで「将来はギャラリストになりたい」とおっしゃっていたんですね。
山中さん:はい、本気で写真に取り組む、鈴木達朗さんのような方々をサポートできるようになりたいんです。
写真を資産として買い取って、自分で運営するギャラリーで展示して、販売まで携わりたいと思っています。
目次:まさかポートレートモデルのお仕事のお話から、そこまで繋がるなんて……。
山中さん:私は今まで長い間、ポートレート撮影を通して写真に携わる方々に、その楽しさや魅力について教えてもらってきました。
写真が好きだからこそ、大変なことがあっても活動を続けてこれたんです。
でも、ある時、気がついたんですよね。
もしも目の前で困っている写真家さんがいたとして、今の私ではなんの助けにもなれないのだと。それが本当に悔しかったんです。
そのときから、写真を愛する方々の助けになりたいと思うようになりました。
しかし、写真界に貢献していくためには、写真に関する知識や経験を得るだけでなく、確かな実績をもって、認められていく必要があると考えています。
現在は、少しでも足場を固めるために、事業をおこし、会社を経営する形で、夢を叶えるための基盤を作っています。
最終的には、その資金でギャラリーを作り、作家支援を行うことが夢です。
目次:写真が好きだからこそ、同じように写真を愛する方々を助けたいんですね。
山中さん:はい。それに、もし私の支援によって日本の写真文化の発展に寄与できたら、結果的に今までお世話になってきたカメラマンさんたちにも、恩返しができるのではないかと思って。
私にはおこがましい夢かもしれないし、叶えるのにどれだけ時間がかかるかはわかりませんが、少しでも前進していきたいです。
目次:山中さんなら本当に夢を叶えてしまうところが想像できます。
これからも、応援させてください!
山中さん:ありがとうございます!
日々の活動を楽しみながら精一杯頑張っていきますので、よろしくお願いします。
(撮影:目次ほたる)
山中夏歩さんとの対談を終えて
秋空に冬の色が混ざり合う11月。
私はおろしたばかりのコートを羽織って、山中さんとお会いするために、約束の場所に向かっていた。
(よし、遅刻は大丈夫そうだ)
iPhoneで時間を確認しながら、飲み物を買おうと道中のコンビニに寄る。
(今日はどんな対談になるだろう)
ペットボトルコーナーの前で、私は不安と喜びが入り混じった複雑な感情に揺れていた。飲み物を選ぶ手に、自然と力がこもる。
(山中さんが、喉が乾いたら大変だよね)
あたふたと煎茶を手にとったが、もしも山中さんが煎茶が嫌いだったらどうしようと急に不安になってきた。
ほうじ茶、ジャスミン茶、紅茶、玄米茶、その他諸々。
コンビニのお茶は意識して見ると、ありがたいことに種類が豊富だ。
しかし、緊張して慌てている私にとって、その豊富さは恨めしいとさえ思った。
絶対に遅刻はしたくない。けれど、それと同じくらいお茶のチョイスも間違えたくなかった。私は、結果的に煎茶と玄米茶とほうじ茶、3本のペットボトルが入った袋を持って、コンビニを出ることになった。500mlのペットボトルを3本持つのはけっこう重い。
でも、そんなことはどうでも良くて、とにかく足早に目的地を目指した。
約束した場所に到着して、山中さんを待っていると、彼女は以前お会いしたときと変わらない様子であらわれた。
にこやかに挨拶をする山中さんに、私が3本のお茶を差し出すと、彼女は玄米茶を選んだ。
(ああ、3本買っておいてよかった)
私は対談とは全く関係ないことに安堵しながら、お互いにマスクで顔を覆いつつ、対談をスタートした。
最初のうちは軽い世間話をしていたが、途中からヒートアップしたようで、山中さんの口調もだんだんと熱を帯びていたように思う。
「写真家さんの助けになりたいんです」
迷いのない口調で語る彼女の話を聞くたびに、私は彼女の中の情熱の一端に触れられた気がして、嬉しかった。
ポートレートモデル、撮影会運営、ライブ配信事業、そして、ご自身での撮影活動。
以前から幅広い活動をする彼女は、一体なにを目指しているのだろうか。
そんな私の疑問を、山中さんはゆっくりと解き明かしてくれた。
彼女は、写真で夢を描きあげるために、数々の点を線で繋いでいたのだ。
写真を通じて、着実に前進している山中さんとお話しして、「撮る・写る・見る」の、どれをとっても、写真は世界を発見する「目」を与えてくれるのだと実感した。
(撮影:目次ほたる)
山中さんは積極的に新しい写真や体験に触れることで、自らの考えや常識を塗り替えてきている。写真によって新しい世界を見続けるには、それと対峙する自分自身の心を常に柔軟に保っておかなければならないのだ。
「もっと色々な写真を見てみたいんです」と、語っていた山中さん。
そんな写真に対する前のめりな姿勢が、彼女への撮影依頼が途絶えない理由なのだろう。
写真をはじめたばかりの私と、何年も前から写真と向き合い続けてきた山中さんが、同じ空間で、同じカメラという道具を握っているのが、不思議だった。
しかし、その違いすら飲み込んでしまうのが、写真のもつ懐の深さであり、遠い昔から人々を魅了する理由なのかもしれない。
「写真ってなんだろう」
「撮るってなんだろう」
私が冒頭で綴った問いに、山中さんはすでに答えを出しているように感じた。
「写真」が、私たちに平等に与えられた世界の愛し方だとしたら。
その広い世界に、私はようやく一歩、足を踏み出せたところだ。
▽山中 夏歩 (やまなか・なつほ)
写真が大好き。
モデルとしてだけでなく様々な活動を通して写真とポートレートの発展のため日々模索中。
2015年11月から約2年にわたり撮影会の代表を務め、その後フリーランスのポートレートモデルとして活動。年間300回以上の撮影依頼をこなし、雑誌掲載他、プロカメラマンの作品撮りやワークショップのモデルも務める。
日本各地を飛び回るモデル活動の中で「応援して下さるフォロワー、ファンの方々と交流を深める機会をもっともっと作りたい」という想いから「スキマ時間に自在に交流ができる、新しい配信スタイルと体験」を構想し、2019年9月に株式会社munimuを設立。ライブ配信アプリMonopol(モノポル)を独自に開発。
2020年3月にはフリーランスポートレートモデルによる撮影企画FPM企画室をオープンし初回予約数は600枠以上の応募があった。
山中さんのTwitterはこちらから
文・構成 目次ほたる