目次ほたる 「記憶のはしっこ」#21
8 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の21回目です。
目次ほたる 「記憶のはしっこ」#21
8 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の21回目です。
(iPhone 7 Plusで撮影)
この頃、「Dazzカメラ」なるアプリを使っていた。
Dazzカメラとは、スマホカメラで簡単に「フィルムっぽい写真が撮れる」というお得なアプリで、SNSでたくさんの写真好きの方々が「これは良いアプリだ」と勧めていたから、ダウンロードしてみたのだ。
さっそく使ってみると、たしかに良い。
スマホを使って本当にフィルム写真みたいなのが撮れるし、本物のフィルム写真と違ってフィルムの管理や現像などの、手間がかからない。
(これは手軽でいいかも)
そう思って、私はたびたびこのアプリで写真を撮っていた。
(iPhone 7 Plusで撮影)
そうして最初のうちは、その「フィルムっぽい写真」だけで満足していたものの、だんだんと本当のフィルム写真にも興味が出てきた。
(本物のフィルムカメラなら、もっといい写真が撮れるんじゃないか)
そう、欲が出てきたのだ。
でも、私のフィルムカメラ歴なんて、せいぜい「写ルンです」などのインスタントカメラくらいのもので、ちゃんとしたフィルムカメラを使ったことなんて、ほんの数回しかない。
どうしようかと考えているところで、ちょうど連絡をくれた方がいた。
(Konica C35で撮影)
その方が、この写真に写る女性、「りんこさん」だ。
りんこさんは、以前からTwitterで繋がっていた方で、彼女は大のフィルムカメラ好き(好き、なんてレベルじゃないくらいフィルム写真をたくさん撮っている)。
前々からお会いしてみたいと思っていたけれど、なかなか機会が巡ってこなかった。
けれど、今回は私が行きたかった日暮里の飲食店に「よかったら、一緒に行きませんか」と連絡をくださったのだ。
ようやく繋がった縁、もちろん「一緒に行きたい」と返事をして、約束が決まった。
(Konica C35で撮影)
当日、日暮里駅に集合すると、りんこさんは恋人である「オオゼキさん」と一緒に現れて、私に笑顔で手を振った。お互いにマスクを付けていたけれど、その明るく柔らかな雰囲気を見れば、すぐにりんこさんだと分かった。
「まずは腹ごしらえ」と、一緒にランチを食べていると、りんこさんは自分のリュックから、まるでドラえもんの四次元ポケットのごとく沢山のフィルムカメラを取り出して、私に見せてくれたり、説明をしてくれたり。
オオゼキさんはチェキをよく使うようで、美味しそうにランチのパンを頬張るりんこさんを撮影している。その姿が幸せそうで、なんだか微笑ましかった。
ランチを食べ終え、お店を出て歩き出すと、りんこさんが、
「よかったら、私のカメラをお貸しするので、撮ってみませんか?」
と、ありがたすぎるお誘いをしてくれた。
「せっかくなので、是非……」
恐縮ながら、お願いすると、りんこさんはリュックの中から小さなカメラを1つ取って、私に差し出した。
「これが使いやすいと思いますよ。小さいし、操作も簡単だから」
りんこさんの手には、シンプルなデザインの黒いボディに「Konica C35」と刻まれたカメラがのっている。
私は壊してしまったらどうしようと不安になって、恐る恐る受け取ると、それは思ったよりもずっと軽く、手のなかに収まった。
りんこさんに使い方を説明していただいて、シャッターを押してみる。
すると、「カシャリ」と心地の良い音が響いた。
(か、可愛い……)
フィルムカメラというと、大きくてゴツゴツとしたデザインのイメージがあった。
けれど、手の中にすっぽりとおさまるKonica C35は、私のイメージとはまったく違う、子猫のような愛らしさがあって、たまらなかった。
(Konica C35で撮影)
フィルムカメラで街を撮るのは、難しい。
まず、どのタイミングでシャッターを切ればいいのかわからない。
普段はデジタルカメラばかり使っているものだから、撮りたいものを撮りたいだけ撮れるし、便利なオートモードを使えば、大きなヘマをしない限り、たいがいキレイに写せる。
けれども、フィルムカメラだとそうもいかない。
Konica C35はピントを自分で合わせなきゃいけないし、そもそも現像が終わらない限り、本当にちゃんと写っているかも確認できないのだ。
(うーん、やっぱりアプリみたいにはいかないか)
手探りでカメラを握る私の隣で、りんこさんやオオゼキさんは、次々に撮りたいものを見つけ、躊躇なくシャッターを切っているのに気がついた。
「りんこさんはデジタルみたいにたくさん撮るんですね。私、フィルムだから大事に撮らないとって思うと、なかなか撮れなくて」
そう私が言うと、りんこさんは「まあ、慣れですよ」と言って、笑った。
(慣れ、かぁ)
りんこさんはフィルムカメラに慣れてしまうくらい、何度も何度もフィルムの世界に触れているのだ。彼女にとって、フィルム写真は日常の中にあるようだった。
しかし、私の手の中にいるカメラが映し出そうとしているのは、どこか別世界な気がして。
フィルム写真は私にとって、まだ、どうにも、非日常なのだ。
りんこさんがカメラに触れる姿を見て、そう感じた。
(Konica C35で撮影)
撮っているうちに少しずつ慣れてくると、撮影のテンポが良くなってきた。
戸惑いが無くなると、撮りたいものも増えるから不思議だ。
増える、というか、視界が一気に開かれるというか。
カメラを通して、見える範囲が広がるのだ。
この写真は今回撮ったなかでも、かなりお気に入りの一枚。
デジタルカメラを使うときは、こんなふうに既存のお店や広告の文字が入るのは嫌だったのだけど、ある写真家さんの言葉を思い出し、少し考え直した。
「フィルム写真はね、100年残るものなんだよ。ちゃんと管理して、大事に持っておけば、たとえ天災があって家がぐちゃぐちゃになったとしても、写真だけは復元できたりする。そのくらい、残せるものなんだ」
もしも、今撮っている写真を100年残せるとしたら。
100年は無理でも、その半分くらいは残せるとしたら。
そう考えると、撮り方も変わってくるのかもしれない。
だって、私が目の前にしている風景は時間が経てば変わってしまうのだから、全てをまとめて残しておきたい。
そう思い、試しに看板の文字を入れてみることにしたのだった。
(Konica C35で撮影)
りんこさんとオオゼキさんと、ひょんなことから始まったフィルム写真散歩in日暮里。
久しぶりに本物のフィルムカメラを使ってみて、カメラのリアルな重量や、フィルムを巻く感覚、シャッターを切る瞬間に触れると、アプリだけでは到底、満足できないだろうなと思った。
それぞれに良さがあるけれど、実際にカメラを構えて、写し、現像する。
この一連の流れを肌で感じられる時間が、とても魅力的だった。
最後は仲の良さそうに話す、二人の写真を。
私が日常的に一緒にいる人たちのなかに、カメラを使う人は少ないから、
恋人同士で写真を楽しむ、りんこさんとオオゼキさんがちょっと羨ましかった。
私も写真を一緒に楽しめるような仲間を、もっと増やしていきたい。
<こやまりんこさんのTwitterアカウントはこちら>https://twitter.com/RincoKoyama
<オオゼキリョウトクさんのTwitterアカウントはこちら>https://twitter.com/ZekiPhone
撮影・文 目次ほたる