目次ほたる 「記憶のはしっこ」#24
8 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の24回目です。
目次ほたる 「記憶のはしっこ」#24
8 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の24回目です。
(撮影・Canon IXY DIGITAL 910 IS)
東京都内に緊急事態宣言が発令された。
もともと仕事はリモートでやることがほとんどだったから、ありがたいことに生活には支障はなかったのだが、困ったのは写真を撮りに行く場所が限られることだ。
本当は都心に出て、人がたくさんいる街中の様子なんかを撮りたかったのだけれど、今はそうもいかなくなった。それでも、晴れた日くらいはお散歩に出かけたい。
そこで、この日は豪徳寺という世田谷区にある有名なお寺に向かうことにした。
平日の昼間のお寺は、ガラガラに空いているのが相場だから、比較的安全だろう。
小田急線豪徳寺駅を出て、商店街を歩く。きっと普段なら、もっと賑わっているのだろうが、今日はあまり人がいないから、どこか寂しさを感じた。
(撮影・Canon IXY DIGITAL 910 IS)
グーグルマップに頼り切りで、歩くこと10分。
そろそろ到着するはずなのだけど、なかなか寺らしきものが見つからない。
しかも、GPSが狂っているのか、行き先を示す矢印が全く動かなくなった。
そういえば、数年前に豪徳寺に訪れようとしたときも同じようなことが起こった記憶がある。結局あのときも数分で着くはずの道のりを30分以上かけて歩いたのだ。
不思議だなぁと思いながら、手に持ったスマホをくるくると回しながら地図を読み取り(私は信じられないくらい方向音痴だから、地図ももちろん読めない)、どうにか歩くことプラス10分。やっと寺の塀らしきものが見えたが、どうやら庭の工事をしているのか、周りには工事現場が広がっていた。
(撮影・Canon EOS Kiss M2 )
工事現場の近くに、「この先、豪徳寺」と書かれた立て看板を見つけたおかげで、やっとの思いで、豪徳寺に到着できた。長かった。ちょっとした冒険だった。
お寺の正門の前でできるかぎり丁寧にお辞儀をして、門をくぐると、そこには美しい建築物が並んでいる。あたりを見回すと、思ったとおり境内には人がほとんどおらず、一安心。
すこし奥に進んでいくと、たくさんの絵馬の前で仲の良さそうな二人が、それを見て笑い合っていたので、私も覗いてみることにした。
(撮影・Canon EOS Kiss M2 )
願いを背負って風に揺れる絵馬。
しかし、「絵馬」のはずなのに、猫が描かれている。
これでは「絵猫」じゃないか、と心のなかでツッコみたくなるが、猫が描かれているのには、ちゃんと理由があるのだ。
(撮影・Canon EOS Kiss M2 )
それがこちら。圧巻の招き猫の数。
大小限らず無数の招き猫が境内に飾られていることが、豪徳寺の一番の見どころであり、この場所が有名である所以なのだ。
初めて見ると、大量の招き猫が規則正しく並べられているその光景はかなり不気味というか、どこか恐ろしさすら感じる。
しかし、見慣れてくると招き猫に描かれている表情が1つ1つ違っていることに気が付き、顔を見比べたり、自分好みの招き猫が見つかるなどの楽しみもある。
(境内にお守りなど置いた売り場があり、そこで新品の招き猫も購入できるらしい)
(撮影・Canon EOS Kiss M2 )
無数の招き猫に一心に見つめられるなか、ひときわ眼力を感じる子がいたので、せっかくだからアップで撮らせてもらった。招き猫のポートレートだ。
(撮影・Canon IXY DIGITAL 910 IS)
境内をぐるりとまわりながら、一通り撮らせてもらって大満足した私はそろそろ帰ろうかと思ったが、1つ不安があった。そう、あのマップだ。
(また帰りもGPSが乱れるのかなぁ)
そう思いながら帰り道を歩いたが、今度はなんの問題もなく駅までたどり着けた。
しかも、10分もかからず。
行きはあんなに時間がかかったのに、帰りはあっけなく帰れるなんて。
もしかしたら、私はあの招き猫たちにとって、招かれざる客なのかもしれない。
撮影・文 目次ほたる
(プロフィール写真/撮影・ヤツナミトモ)