目次ほたる 「記憶のはしっこ」#30
7 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の30回目です。
目次ほたる 「記憶のはしっこ」#30
7 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の30回目です。
春の訪れを待ち侘びていたら、いつのまにか3月になっていた。
風は冬の静けさを忘れて丸みを帯び、どこからか花の香りを届けてくれる。最近は、そんな感じがする。
本当は、せっかくだから春らしい写真が撮りたかったのだけれど、今週は天気がいい日が少なかったので、街中で見つけた風景を。
このところ、フィルム写真にハマっているので、今回はスナップ写真を少しフィルムライクに編集してみた。
仕事で新大久保に寄る用事があったので、待ち合わせよりも少し先に着いて、街中を探索した。
新大久保は、韓国料理や韓国化粧品のお店が立ち並ぶ、言わずと知れた東京のコリアンタウンだ。
私は昔から人が多い場所がどうも苦手で、混沌としたこの街に好んで訪れようとはしなかったのだが、カメラを通して久しぶりに眺めた景色は、私が知っていた場所とは、少し違うように見える。
新大久保は韓国のお店がたくさんあることで有名だから、そればかりなのかと思いきや、大通りから少し外れれば、インドやタイ、中国など、アジア諸国の色々なお店が現れるのが、この街の面白いところだ。狭い街のなかに多彩な文化が混じり合っている。
街中にある空き缶やペットボトルのゴミを見てみてほしい。よく観察してみると、日本語以外の言語で表記されているものがほとんどで、別の国に迷い込んだような気持ちになれる。
たばこ屋さん。
大通りから外れた商店街に、なにやら緑色の箱が大量に積まれていると思って近づいてみると、その箱は全てマスクが入っているのだと気がついた。
こんな光景、一昨年の今頃にはなかったはずなのに、世界に変化があれば、透明な水に絵の具を溶かしたときのように、街はガラリと変わる。
最近、こういう「その時代特有の風景」を見つけたとき、「ちゃんと写さなきゃいけない」という意識が迫ってくるようになった。
自分は植物や花など、人のいない自然を撮るのが好きだと思い込んでいた。
けれど、街を撮ってみると案外そうじゃないと分かる。
人がいつもいる場所には、たとえいなくなったとしても、人の気配が残る。
そんな残り香をカメラで辿る時間に、とてもワクワクするのだ。
撮影・文 目次ほたる