目次ほたる 「記憶のはしっこ」#34
7 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の34回目です。
目次ほたる 「記憶のはしっこ」#34
7 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の34回目です。
このまえ見た夢で、私は大きな温室にいた。
鉄格子で区切られ、ガラスの壁と天井から差し込む、昼間の暖かい光を心地よく思いながら、一人で温室のなかを散歩する夢だった。
それがあまりに気持ちの良い夢だったから、私は温室のある植物園に行きたくてたまらなくなったのだ。善は急げと、そう遠くはない植物園に出かけることにした。
春真っ盛りと言わんばかりの麗らかな晴天の日は、植物を見に行くのにぴったりだった。
植物園の門をくぐり抜けると、そこには空に向かっていっぱいに咲いた花々が風に揺られていた。
植物園の中は、花畑エリアとビニールハウスエリア、そして温室エリアに分かれており、順番に回ってみることにした。
ビニールハウスの中では、顔を赤らめるように桃色に咲いたユリの花が印象的だった。
園内でゆっくり花を楽しんで、最後に向かったのは大本命の温室。
2階建ての一戸建てくらいある、大きなガラス張りの建物はあきらかな異彩を放っていた。
扉を開けて、一番に目に入ってきたのは、たくさんのコチョウラン。
私はこんなにたくさんのコチョウランを見るのは初めてでびっくりした。
というのも、私の祖母がコチョウランを育てるのが趣味で、とても難しい植物だと聞かされていたのだ。
「空調管理が難しくてね、キレイな花を咲かせるのが大変なんだよ」
鉢植えにせっせと水をあげながら、ぼやくように言っていた祖母の言葉をよく覚えていた。
そんなコチョウランが、大輪の花を惜しげもなく咲かせている姿は気高く、圧巻だった。
温室の中は、草花の香りでいっぱいで、独特の湿気を含んだ空気が全身を包み込む。
夢の中で見た景色より、ずっと爽やかな光景に囲まれた。
異国の植物たちが瑞々しい葉を広げる様子が新鮮で、立ち込める青い香りを肺に吸い込もうと、ゆっくり深呼吸をした。
植物から感じる溢れんばかりの生命力を撮りきれるか心配で、いつもより丁寧に、そしてたくさんシャッターを切ったけれど、やっぱり撮りきれていないような気がする。
懸命に生きる植物を撮るのは、本当に難しい。
「木漏れ日」という言葉は、外国語では翻訳できない言葉だと、いつの日か読んだ本に書いてあった。
撮影・文 目次ほたる