目次ほたる 「記憶のはしっこ」#35
8 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の35回目です。
目次ほたる 「記憶のはしっこ」#35
8 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の35回目です。
(撮影・Kodak C35)
最近、フルマニュアルのフィルムカメラを使い始めた。
普段はデジタルカメラのオートモードを使って撮影しているから、以前はマニュアル撮影なんて聞いただけで震え上がっていたのだけど、何故か買ってしまった。
どう考えても使いこなせないのに、カメラの魅力みたいなものに惑わされて、つい手を伸ばしてしまったのだから、やっぱりカメラは恐ろしい。
さて、マニュアルのマの字も知らない超初心者の前に、フィルムカメラが鎮座する。
細かな数字をひっそりと掲げたダイヤルたちがこちらを見上げるが、新しい主人である私はそのダイヤルをどう回していいかすらわからない。なんだかカメラに申し訳ないことをしている気分になった。
とりあえず、まずは、どのダイヤルが、どの役割を持って存在しているのかを調べる。これはネットで調べれば、あまり時間はかからずに理解できた。
(撮影・Kodak C35)
次は、どう動いてもらうか、だ。
露出を決めなきゃいけないことは分かっていたので、手元に「フィルムカメラ入門」的な本を持ちながら、書いてある内容を頼りにダイヤルを回す練習をしていく。
本当にこれで合っているのかはわからないが、撮ってみないことには何も始まらない。
「フィルムは、撮れる枚数が多ければ多いほど良い!」などと思っていたけれど、今回に限っては36枚撮りのカラーネガフィルムを入れたことに激しく後悔した。
これじゃあ、36枚を撮り切るまで、写真を確認できないじゃないか。
(撮影・Kodak C35)
それなりの重量感があるカメラを首から下げて、街を歩くと、なんだかいつもより背筋が伸びる気がした。
歩く振動で、ごくたまに私の身体の固い部分にカメラのボディがゴツリと当たる衝撃に、ちょっと笑いそうになる。
ぶつかると痛いくらい重いカメラを持っているのを実感して、「カメラなんて小さくて軽いほうがいいに決まってるじゃん!使いやすいのが1番!むしろ、スマホでもいい写真撮れるし!」と、息巻いていた過去の自分を思い出したのだ。
(撮影・Canon EOS Kiss M2 )
かつての私に教えてあげたい。
スマホもいいけど、やっぱり、カメラをちゃんと構えるときの喜びは何ものにも代えがたいよ、と。
それと、軽くてコンパクトなカメラも魅力的だけど、大きくて重いカメラだからこそ撮れる写真とか、その日の撮影を任せられる信頼感があるんだよ、とも。
きっと、ほんの1年前の私はそんな話には聞き耳を持たなかったと思うけれど、気がつけば、新しいカメラと共に歩けている喜びを隠さずに、マスクの下でニヤニヤしている自分がいるのだから、その対比が余計に可笑しかった。
(撮影・Canon EOS Kiss M2 )
歩いていると、街中に大きな魚が泳ぐ姿が見えた。
鯉のぼりだ。そういえば、そろそろ子どもの日なんだな。
色とりどりの鯉が、風に吹かれて、空を泳ぐ姿を見ると、春の訪れと、そしてこのあと訪れる夏への期待が高まる。今年も、きっと暑くなるのだろう。
一緒に持ってきていた、デジタルカメラを使って、鯉のぼりを写す。
フィルムカメラも楽しいけれど、腕が未熟な私にでも、確実にシャッターを切らせてくれるデジタルカメラの存在はやっぱり安心感があって、欠かせないのだ。
(撮影・Canon EOS Kiss M2 )
カメラを使うようになってから、どんなときでもシャッターポイントを見つけたくて、目が自動的にぐるぐると周囲の景色を確認するようになった。
道を曲がったその先の、まだ見ぬ景色に期待するなんて経験、今までしたことがなかったのに。
写真を撮るときは、なんだかいつも目の前の世界に対して、「次はなにを見せてくれるんだ」「なにを起こしてくれるんだ」と、期待してしまうのだ。
(撮影・Canon EOS Kiss M2 )
36枚のフィルムをやっとのことで撮り終わって、いま現像に出している。
出来上がりが楽しみで仕方がない。
撮影・文 目次ほたる