目次ほたる 「記憶のはしっこ」#40
8 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の40回目です。
目次ほたる 「記憶のはしっこ」#40
8 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の40回目です。
先日、用事があって出かけていたところ、帰り道に釣り堀があるのを発見した。
釣り堀なんてもう何年行っていないだろう。思い出せないほど遠いかすかな記憶しかなかったからか、急に懐かしくなって、寄り道してみることにした。
敷地のなかには、6面ほどの堀が作られていて、底のほうに目を凝らして見てみるとどうやらマスが泳いでいるらしい。その釣った魚をその場で焼いて食べられるみたいだった。
川魚なんてなかなか食べられる機会がない。早速、釣り竿をレンタルしてマス釣りをスタートした。
しかし、どうしたものか一向にマスが釣れる気配がない。釣れる気配どころか、餌に食いつく様子すら見受けられないのだ。考えてみれば、私に釣りの心得など1ミリもなかった。
「これ、絶対釣れないやつじゃん……」
そう呟いてうなだれていると、あまりに下手くそな私を見かねたのか近くにいたスタッフの女性が声をかけてくれた。
「あんた、そんなんじゃ釣れるわけないよ」
そう言いながら、私の釣り竿をヒョイと掴んで、餌の正しい付け方を指南しながら、釣れそうな場所に連れていってくれた。
「ほい、ここで釣ってみな」
そう言って渡された竿でリベンジしてみると、あら不思議。
さっきまで釣れなかったのが嘘のように、簡単にマスが釣り上げられたのだ。
「さすがプロは違いますね……ありがとうございます!」
ピチピチと激しく動くマスに、若干引きながらお礼を言うと、スタッフの女性は「まあね」と照れくさそうに笑っていた。
こうして、なんとか私は釣り上げたマスにありつけることになったのだった。
釣ったマスは施設内にある処理場ですぐに捌いてもらえて、串にささった生のマスを受け取った。そして、マスを持って次は焼き場に向かう。
熱気が舞い上がる囲炉裏のような場所があり、そこで炭火焼きにしてもらえるようだ。
焼き場のスタッフさんにマスを渡して、ワクワクしながら焼けるのを待つこと数十分、スタッフさんが私のいる席に焼き上がったマスを持ってきてくれた。
お礼を言いつつ、冷めないうちに齧りつくと思わず「うっま!!」と素の声が漏れる。
焼き立てのマスはびっくりするほどフカフカと柔らかく、咀嚼するまでもなく口のなかで解けていってしまった。それが惜しくてまた齧りつき、飲み込んで、齧りつきの繰り返し。臭みもなく、魚の旨味が凝縮された味がたまらなく美味しかった。
「美味しすぎる……あと5本は食べれる……」
あまりの美味しさにそんなことを言いながら必死に食らいついていると、あと少しで食べ終わってしまうというところで、私の目の前にあったお皿に誰かが焼いたマスが乗せた。
びっくりして出てきた方向を見上げると、さっき私にマスを持ってきてくれたスタッフさんがいる。
状況が読めず、きょとんとしていると、
「あげるよ、どうせ誰も食べないやつだから。5本もないけどね」と、ぶっきらぼうにマスを渡してくれたのだ。
やっと、私の話を聞いてサービスしてくれていることがわかって、慌ててお礼をいうと、「どういたしまして」と言いながらスタッフさんはまた焼き場へ戻っていった。
2匹目のマスはもっと美味しかった。
釣り場のスタッフさんにしろ、焼き場のスタッフさんにしろ、人々の優しさで胸がいっぱいになる1日だった。
そういえば、釣り堀の敷地内に池があった。
マス釣りを終えて残った餌をその池の鯉にやっていいらしく、小さな女の子が鯉に餌をあげていたのだ。
楽しそうに池へ餌を投げ入れる姿を微笑ましく思って見ていたのだが、いつのまにか少女の手の下に鯉の大群押し寄せて、和やかな昼下がりが禍々しい光景に変わっていく。
そんな光景にぎょっとして、思わずカメラを向けてしまった。
最初は離れたところから眺めていたのだけれど、好奇心に負けて、少女の隣にお邪魔することにした。
柵を隔てて、そっと池の中を覗いてみると、一心不乱に口をバクバクと開閉する鯉たちと目があって、危うく悲鳴をあげそうになった。
鯉たちからすれば、単に餌を食べるために集まっているだけなのだが、はたから見るとなかなか迫力があるというか、恐ろしいというか。
本能のままに餌の落ちる方向に群がる様子は、さながら芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のラストシーンのようだ。
あの話は最後、糸がプツリと切れて主人公もろとも真っ逆さま、という展開だったが、どうか鯉たちには餌が平等に行き渡ってほしいところだ。
カラー写真を撮っていると、写真のなかの好きな色がわかってきた。
撮影するときや、撮った写真と編集するときになんとなく気にしてしまう色、他の色よりもこだわってしまう色が「写真という範囲での好きな色」だと思うのだ。
私は普段はモノトーンが好きなのだけれど、写真の中の色だと「緑色」が一番好きらしい。
自分で撮って気に入っている写真は緑が画面内に多い写真ばかりだし、撮影時も緑色に注目していることが多い。
そこで、そんな大好きな緑色のなかでも今回は「竹林」を撮りに行ってきた。
竹林だったら、緑色も撮り放題だ。
撮影しているなかで注意深く竹を観察していると、不思議な模様の竹を見つけた。まるで細い白糸で巻かれたようなその竹は、「亀甲竹」という珍しい種類の竹だそうだ。
竹林を歩き回ってみると、様々な種類の竹に出会えた。
まさか竹にそんなに種類があるなんて思いもしなかったので、ちょっとびっくり。
写真を撮っていると、普段は見つけられないような発見がたくさんある。
竹のアーチ。
撮影・文 目次ほたる