目次ほたる 「記憶のはしっこ」#44
9 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の44回目です。
目次ほたる 「記憶のはしっこ」#44
9 Photosモデル・ライターとして活動する20歳、目次ほたるが写真を通して、忘れたくない日々の小さな記憶をつなぐ連載「記憶のはしっこ」の44回目です。
暑い、暑すぎる。
梅雨が幕を閉じ、一息つく間もなく真夏が押しよせてきた。
あんなに雨が降ってうんざりしたと思ったら、次は体中から吹き出す汗と窓の外で鳴くセミの暑苦しい声に辟易している。
(去年はこんなに暑かっただろうか?やっぱり地球温暖化の影響?)
そんなことを思うが、考えてみれば毎年毎年「今年は去年より暑い」と思っていた気がする。要は、夏が来るまえに訪れる、春の暖かさや冬の寒さに撹乱されて、去年の暑さを忘れてしまっているだけなのだろう。四季のある国で生きるものの宿命である。
それはそうとして、どこでもいいから涼しい場所にいきたい。
もちろんこの暑さだから部屋は一日中冷房をつけている。体にあたる冷たい風はたしかに涼しいが、今月の電気代を考えると背筋まで凍りそうになるのだ。
どこか涼しい場所、あと写真も撮れる場所。そう考えて今回は「大谷資料館」に行ってきた。
大谷資料館に向かう途中で現れたのは、大きな観音さま。
こちらは「平和観音」といって、約27メートルもある巨大な観音像だ。
太平洋戦争後、その戦死戦没者の供養と世界平和を祈って彫刻された平和観音は、その堂々とした大きな体とは裏腹に、優しい面持ちでどこか遠くを見渡していた。
岩肌から突き出る観音像は、この町を守っているようだった。
観音像から資料館までは、思ったより距離がある。
普段は家のなかにいてばかりだから、灼熱の太陽の下を歩いたのはその日が初めて。軟弱に成り果てた自分にムチを打って、ヘトヘトになりながら歩いた。
行く道は暑いながらも自然にあふれていて、パソコンやスマホの画面ばかり見ている目は癒やされる。
さて、やっとこさ到着した大谷資料館がこちら。
大谷資料館は、かつて大谷石を採掘していた採石場の跡地を博物館として公開している場所だ。
地下への階段をおりていくと、広がっているのは広大な地下空間。大きな石をくり抜いて部屋を作ったような館内は、外の暑さがウソのようにひんやりとしている。
初めて見るその光景は、まさに「未知なる空間」というのにふさわしく、まるで別世界に迷いこんだかのような異様さを感じさせた。
高い天井からは、石の間から染み出した水滴がぽたりぽたりと垂れてくる。
薄暗い館内を進んでいくと、数々のオブジェが設置されていて、この空間の異様さを増幅させていた。
突如あらわれた謎の水たまり。赤いライトアップと突き出たオブジェが、某ゾンビゲームを思いおこさせてちょっと怖かった。
館内は進んでいくほど涼しくなり、長袖を着ていてもすこし肌寒いくらいなので、不気味さもあいまって避暑にはぴったりだ。
最後の展示はこちら。
それぞれのオブジェに説明があるわけではないので、そこからなにを感じ取るかは人それぞれだ。しかし、私がこれを観た瞬間、「赤いウニ……?」と思ったことは口が裂けても言えない。
撮影・文 目次ほたる