vol.7「自分におくる、大きな“マル”」
4 Photosサウナライターとして活動する川邊実穂がお届けする連載「サウナで、わたしはわたしになる」。7回目は「自分におくる、大きな“マル”」です。
vol.7「自分におくる、大きな“マル”」
4 Photosサウナライターとして活動する川邊実穂がお届けする連載「サウナで、わたしはわたしになる」。7回目は「自分におくる、大きな“マル”」です。
あけましておめでとうございます。
というには結構な時間が空いてしまったけれど、この1月もなんだかんだでバタバタと過ごしていて、だからこそサウナに行く回数は少し、セーブしていた。
それはサウナが私にとってパートナーみたいな存在だからだと思う。
パートナーのことが大好きだから、雑に扱わない。
だから
「そろそろ1週間経ったし、行かないとなー(なんとなく)」
とどこかに義務感がある時って、それはもう仕事になってしまっているから、
ちょっと行くのはやめよう、と思うのだ。
もっと純然たる気持ちでサウナに向きあいたいなぁって。
なので新年が明けてもなかなかタイミングを見つけられず、ようやく
「そろそろ気持ちと時間に余裕できてきた。よし、今だ!」
と思った時には、なんだかんだ2週間ぶりのサウナになってしまった。
こんなに期間が空いたのは少し久しぶり、なのでちょっと緊張もする。
こういう時はリハビリみたいな心持ちなので、刺激は求めない。
慣れていて安心する、みそ汁みたいなサウナに行きたい。
ということで2025年、私のサウナ初めは西荻窪「ROOFTOP」に決まった。
エレベーターに乗り込む前から「おーまい…」と思わず頭を打つ。
「バスタオル2枚お貸し致します」だって……!
そうなのよ、この季節は全身タオルにくるまりたい(特に足先にタオルをくるっと巻き込みたい)。
そういうかゆいところに手が届くサービス、スタッフさんのサウナ愛をお見受けしますし、やっぱり来てよかった、とすでに安心する。
エレベーターを降りるとエントランスはしっかりお正月仕様で、気持ちがホコッとする。
お正月が醸しだす街全体のゆるい空気感って、やっぱりいいよね。
世が常にこうであってほしい。
受付のスタッフさんは以前も接客してくださった方だ。
言葉遣いが丁寧で、質問には的確な回答が返ってきて、コミュニケーションラリーがまた心地良い。
受付を済ませ、サウナがある4Fに上がると入り口にキュン。
生まれ変わってビニールアヒルになったら、私はこの「O」に座っていたい。
ロッカーキーを手に取ろうとするとすかさずスタッフさんからは、
「ロッカー番号の奇数が上の段、偶数が下の段ですよ」
とアナウンスが。
「あ〜、それ知ってたらこの番号にしなかったかも」
という後悔を未然に防いでくれる優しさに心から感謝する。
「さ〜てと、サウナサウナ…」
と浴場に入ってまずギョッとした。
1人のミイラがそこに、いた。
あ違った。
フェイスタオル、サウナマット、バスタオルといったあらゆるタオルを駆使して、皮膚という皮膚を余すことなく隠している。
セルフミイラの造形は、もはや美しい。
今日は10度以下の寒空だ。
はじめから外気浴をして飛ばさずに、内気浴スペースで休憩。有りだな。
身体を洗っていざサウナ室に入ると、眠っていた細胞たちが歓喜しながら目覚めていくのがわかる(以下、細胞たちの声)。
「わぁ、久しぶり!」
「久しぶりのサウナだ!」
「あったかい!」
そうだよねそうだよね、随分お待たせさせてしまいました。
久しぶりにサウナに行く時は、座る場所もいつもと変えない。
私はベンチの1段目・左奥のストーブ近くに、あぐらする。
できる限り新しい刺激は排除する。今日はそんな気分。
「シャワワー…シャワワー……」
「ROOFTOP」のサウナでは10分に一回、オートロウリュが発動する。
それはまるで、真夏の夕立。
急に降ってきたゲリラ豪雨が止むのを待つ、軒下の雨垂れの音だ。
止んでほしいような、もう少し待っていたいような。
そんな切なくも甘酸っぱい情緒を誘う、音がする。
パラッパララ、しゃわわわ……
私は人の感覚=「五感」にはプラスで「脳」っていうのもあるんじゃないかと思い始めた。
「5感+脳」の使用キャパシティを100点満点とすると、脳の使用ウェイトが大きいほどに他の感覚は弱くなるのだ。
集中作業で脳を酷使している時は、耳に入ってくる小鳥のさえずりも、喉を通るコーヒーの味へも、感度を下げよう、下げようと省エネモードになっている気がする。
ただ、サウナに入ると「脳」のウェイトは限りなくゼロになる。
だから耳も鼻も、他の五感も動き出すんじゃないか…?
1セット目の休憩では、先人に倣いタオルでグルグル巻きになりながら内気浴。
ポンチョを羽織りつつ足元はバスタオルで覆い、顔もタオルで覆っていく。
先人の方、こんな心持だったのですね…全身守られている感じがして気持ちいいです。
サナギのようにじっとしていると
「そろそろアロマロウリュの時間です。よろしければサウナにお入りください」
というアナウンス。
ミシミシと身体を目覚めさせ、私は吸いこまれるようにサウナに向かった。
あぁ、思い出した。
「ROOFTOP」のスタッフさんのロウリュはとにかく丁寧なんだった。
まずロウリュ前のアナウンスは優しく、それは優しく、シャボン玉を破らないようなくらいの囁き声。
ロウリュ用のバケツの水も、ジャブジャブには入ってなくて、キッカリ最低限。
そこからのラドル捌きの所作は細やかで美しい。
あゝ、この静謐な空間を守ってくれて、本当にありがとう。
すっかり身体も火照ってきたので、今度は屋上外気浴へ。
フルフラットに横たわり、先ほど同様、もぞ、もぞもぞとタオルに包まれながら体勢を整え、ジッとする。
よし、これだ、これがベストな体勢だ。
ん……??
いまの自分の最適ポーズに、自分でちょっと笑ってしまった。
さながらマチ針のよう。
私は全身をまっすぐ伸ばし、頭上で緩やかに両手を組んで、大きなマルを描いていた。
無意識に送っていた「マル」。
これ、上からみたら相当まぬけというか…
いや、さぞ幸せそうにみえるだろうなあ。
すっかりサウナに、そして自分から元気をもらって、また次の予定へと。
やっぱり今年も、サウナがあるから大丈夫そう。
本年もどうぞよろしくお願いします。
写真は全て「ROOFTOP」で撮影。
住所:東京都杉並区西荻南3-14-7 4F